2021/02/09

Wi-Fi 環境における典型的なミスを避ける

WLAN WiFi Wi-Fi wifi

2021 年 2 月 9 日 Andre Isaza 著

現在、おそらくほぼすべての組織が Wi-Fi 環境を自社で整備しているのではないでしょうか。Wi-Fi 接続はあらゆる組織にとってまるで必須のようになっていますが、強力で安全なソリューションを提供することは言うは易く行うは難しです。Wi-Fi を設置する側としては、新規でアクセスポイント(AP)を導入したり、高価で評判のいい AP と交換したりしたにもかかわらず、使えない Wi-Fi であるとユーザから文句を言われる事態は避けたいものです。

以下、Wi-Fi 環境の典型的な 4 つのミスを紹介します。

  1. すべての AP の出力を最大に設定している。
  2. 同じエリア内複数の AP で、チャネルのオーバーラップ、または同一チャネルが使用されている。
  3. 「10 と 3 のルール」を無視している。
  4. チャネルの帯域幅が広すぎる(80MHz/160MHz)、またはクライアントが多すぎる。

以下にこれらのミスについて 1 つずつ解説します。

1. すべての AP の出力を最大に設定している。

これは、大音量で音楽がかかるバーで、1 ブロック先からでも曲が聴こえるのと同様です。もっとも音楽バーなどであれば、音量を上げ、その場所をわかりやすくして夜の集客力を最大限に高めようとするのかもしれませんが、業務に使用する Wi-Fi では適切な考え方ではありません。建物の入り口付近でも Wi-Fi にアクセスできるのは確かに便利ですが、2.4GHz 帯は広範囲に届くため、 1 ブロック向こうや、駐車場の反対側の端にいても信号を簡単に拾える、という事態が発生します。

理由は想像がつくでしょう。ほとんどの AP(特に消費者市場の AP やローカルコントローラで管理されている AP)については、AP が単体で設置されるのかセットの一部とし設置されるのかわからないため、ユーザとデバイスの距離感をメーカーが把握していません。そのため AP は起動後に利用可能なチャネルを把握し、使用国の電波出力設定とチャネルの使用規制を確認し、優れたユーザエクスペリエンスのため、許可された範囲で最大の出力で電波を出します。メーカーから見ればもっともな話です。顧客のために AP を購入し、電源を入れてネットワークに接続したものの、すぐ隣に設置しても十分な強度の電波を受信しなかったとなれば、立場がありません。

デフォルト出力のままにしたり、すべての AP の出力を上げたりして Wi-Fi 問題を解決するのはなぜ悪いことなのでしょう。第 1 に、2.4GHz 帯で重複しないチャネルを利用することは困難だからです。4 つの AP があるフロアを想像してみてください。3 つがチャネル 1、6、11 を使用しており、4 番目の AP は同じくチャネル 1 を使用しています。1 番目と 4 番目の AP が近すぎると、お互いの邪魔をする同一チャネル干渉を起こし、間違った Wi-Fi 設置(Badfi)への道を歩んでしまいます。

第 2 に、シンプルで短い事前共有鍵を使用しる場合や、さらに悪い場合にはオープンゲスト用 SSID を使用している場合、犯罪者の標的になってしまうためです。対策をしなかった場合、ゲスト Wi-Fi の帯域幅で、複数の外部クライアントによって勝手にインターネットを使われてしまう可能性があります。

第 3 に、ユーザのデバイスは電波をしっかりと受信しているにもかかわらず、Wi-Fi エクスペリエンスが貧弱である場合に短絡的に AP に問題があると思われる、厄介な問題に出くわす可能性があるためです。AP が遠く離れたクライアントと通信を行っている場合に(AP はシングルストリームデバイスで広大な空間を横切らなければならないため、フレームを取得しづらい)同一 AP に関連付けられた他のクライアントが自分の番を待たなければなりません。MU-MIMO を使用しても同様の症状が発生します。物理法則的に、AP が通信を行う時にはすべてのアンテナが、クライアントに対して同一の変調方式と速度でなければなりません。円形の大教室で遠くの席にいる学生が教授に質問をした時、教授には質問がほとんど聞こえない状況に似ています。教授は、再びゆっくり質問を言ってもらい、内容を確認して正しいかどうかをダブルチェックした上で、改めて返事をするはずです。最前列にいる他の学生がこの一連の流れにどれだけイライラするかは想像に難くありません(マイクが用意されているのはそのためです)。

では、どうすべきなのでしょうか。立ち止まって考えてみてください。駐車場全体に Wi-Fi の電波が必要か。それとも入口付近だけで十分か。社屋の境界付近に AP を配置した場合、アンテナの放射パターンを内側に向けることができないか。電波出力を数ノッチ下げて、必要な領域のみをカバーすることも重要です。専門的なソフトウェアで信号の伝播をシミュレーションするか、実際の現場でスマートホンやノート PC で RSSI を測定し、それに応じて値を調整する必要もあります。

2. 同じエリア内複数の AP で、チャネルのオーバーラップ、または同一チャネルが使用されている。

これは、ディナーパーティで、同時に 3 つの会話に参加しようとしていることに相当します。人間の脳は、そのような状況に対応できる集中力は持っておらず、もしそのような忙しい状況にあるとしたら、ゆっくりと話してもらうか、繰り返してもらうかなどの方法をとるでしょう。Wi-Fi クライアントでも同じことが言えます。同じ場所の任意のチャネル上では、一度に通信が可能な AP とクライアントは 1 つ限られるため、中断や再送信を何度も強いられる可能性が高くなります。

なぜ、このようなことが頻繁に起こるのでしょうか?可能性として想像できるのは、現地調査を省略してコストを削減し、チャネルや電波出力の決定をメーカーが付加した自動選択機能に頼っているから、という理由です。AP がコントローラなしで管理されている場合、各デバイスについて個別に設定を行う必要があるので非常に時間がかかります。Wi-Fi Remote Monitoring and Management(RMM)はこの設定に役立ちますが、各ベンダが独自の方法を使用しており、またそれが完璧であることもないため、過度な期待はできません。場所や AP の数に応じた最適な調整には長い時間がかかることがあります。公共の環境でこれを行う場合は、その他の近くにある AP が現れたり消えたりする状態であるため、数時間から数日かかることもあります。

どうすればいいでしょうか。AP を作動させ、ウィザードを完了させて SSID をブロードキャストするだけであれば誰にでもできますが、複数の AP について行動計画を立て、それぞれのカバー範囲を考え、ゆるやかにオーバーラッピングさせてローミングを可能にし、重複しないチャネルを割り当てることはまったく別の話です。つまり、AP をどこに配置するか、どのチャネルを使うかを特定するため、予測現地調査程度はしておいた方がいい、ということです。その後、各 AP の送信出力を手動で調整します。現地調査の上クライアントがどこにあるか、壁、パーティション、ドア、柱などの周囲の障害物からどの程度の信号減衰が起こるかを確認することではるかに正確に決めることができます。AP や外部アンテナの向きを内側に向けるだけで外の道路や隣の建物への電波の過剰な流出は防げます。もちろん、ノッチは数段階下げましょう。3 〜 10 dBm の範囲で AP の電波出力を下げるだけでも、大きな効果があります。そしてこれが、次の最も多い間違いにつながっていきます。

3. 「10 と 3 のルール」を無視している。

安全な Wi-Fi の利用に関する講習を行うたびに、筆者はまず Wi-Fi の基礎について 20 分間簡単な復習をすることから始めます。タイミングを見て、「10 と 3 のルール」を聞いたことがあるかを参加者に尋ねます。今までに知っている人がいたことは一度もありません。筆者がまだ若いサポート担当者だった頃、貧弱な Wi-Fi のパフォーマンスの問題をトラブルシューティングしたくても、AP を制御する UI の中で改善に役立つものは少なかったことを思い出します。使用しているチャネルと帯域幅(当時は 20 または 40MHz)、アソシエーションのセキュリティ設定(WPA2、WEP、Open)、電波出力は変更できました。そして、チャネル変更やセキュリティ設定のダウングレードを行っても効果がない場合、電波出力を大きくして、信号を大きくし、クライアントが絶対に信号を受信するようにしていました。当時の筆者にとっては、これはラジオの音量ボタンのようなもので、出力を上げれば徐々に問題を解決してくれるものだと信じていました。しかしいつでも解決するわけではなく、場合によっては、遠くで信号を受信しているクライアントの状況を悪化させる場合もありました。

ご存知の方も多いと思いますが、無線通信では光の一種である電波が使用されており、計測にはエネルギーの単位であるワットが用いられます。したがってエネルギーの変動は指数関数的な単位で表され、デシベル・ミリワット(dBm)で測定されます。多くの電波エネルギーを体内に通すことは健康に悪影響を及ぼすため、国によって違いはありますが、世界的な安全規制では AP の最大送信電力は 20~30dBm とされています。

10dB を加減した場合、出力はそれに応じて 10 倍増減します。出力をあげることによって、クライアントは AP からより多くの信号を受け取り、結果としてより良いスループットを得ます。また、3dB を足したり引いたりした場合、(当然ながら)出力は 2 倍、あるいは半分になります。これを機にすべき理由は以下です。このルールを無視した場合、科学的で根拠のない Wi-Fi 導入設計をしているかもしれず、顧客から Wi-Fi パフォーマンスの問題について調査を頼まれた場合、結果が一貫性を欠くことになります。単純に電波出力を大幅に上げて問題を解決したいと思うかもしれませんが、これは同一チャネルの干渉や、必要範囲をはるかに超えた信号の発信、他のワイヤレスデバイス(医療用、産業用、隣人の機器など)との干渉を引き起こす可能性があります。ほとんどの場合、これはローミングのエクスペリエンスを台無しにし、クライアントが無作為に AP を切り替えたり、レガシークライアントの場合だと、AP が遠くにある場合でも通信をし続けたりして、同じ APを使用している他のユーザエクスペリエンスを悪くする可能性があります。

この素晴らしい理論は、以下のように適用します。理想的には、障害物による電波の減衰量を測定する現地調査を行った状態が望ましいでしょう。たとえば、ガラスで囲まれたオフィスの天井の真ん中にAP を設置する場合は、ガラスの内と外ではどの程度信号を受信できるのか、クライアントを持っていって測定する必要があります。

外側で -65dBmW、内側で -68dBmW が計測され、-3dB(ガラスやドライウォールでは一般的)の RSSI 減衰があった場合、ストリーミングの質は通常、または低品質で、そのオフィス内でのスループットはより低くなると予想されます(昨今のビジネスではビデオ会議がとても重要な中、これはいいことではありません)。ちなみに RSSI は知覚値であり、環境要因がその値を変動させています。手元で操作するデバイスでは、 AP との通信にさらに支障が出ます(『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』で、円卓の騎士が天高くにいる神と話したとき、神の声は最も簡単に届きましたが、アーサー王の声はほとんど聞こえませんでした)。この測定結果から、電波出力を 3 ~ 5dB 大きく設定する、あるいはより低い出力でカバーするために 2 台以上の AP を配置する必要があるかもしれません。これは電球に例えられます。一定のエリアを照らすために大きなスポットライトを使うべきか、それとも必要なところに焦点を合わせた小さな電球を複数置くべきか、という話です。

4. チャネルの帯域幅が広すぎる(80MHz/160MHz)、またはクライアントが多すぎる。

これが最後です。802.11ac の Wave2/ax の Wave 1(2)について理論的な仕様を読み、ギガビットスループットの素晴らしいパフォーマンスがあれば、クライアントはもう LAN ケーブルを使わなくて済む、と思うかもしれません。ただしこれは指摘したように、消費者マーケット向けの標準です。実際、クライアントが公称最大速度の近似値を出す可能性のある唯一の方法は、単一のクライアントに対して 3 つか 4 つのストリームがあり、近距離で 5GHz 帯を使用し、専用の有線ファイバー接続があるような場合です。まるで家庭用ゲーム機です。しかし専門家によるベンチマークによれば、実測値はいわゆるギガビットの、半分以下です。実際に多くの企業やプロフェッショナルが置かれた状況を比較してみましょう。同じ AP に接続するクライアントの数は多く、スマートフォン、タブレット、ノート PC、IoT に至るまでクライアント(ステーション)の種類も幅広く、受信、ローミングの範囲も多様で、HD ストリーミングが要らない場合もあります。仮にすべてのクライアントが最大量のデータを使用したいとしても、今現在のインフラストラクチャがボトルネックになります。さらに、そのノードのアップグレードだけではなく、リンクアグリゲーションの実装や、2.5/5/10 Gbps のイーサネット機器の導入も必要な場合があります。先行投資が不十分で、ルータやスイッチ、サービスプロバイダがまだシングルギガビットの速度に縛られている場合には、マルチギガビットのスループットの恩恵は受けられません。

実際、専門家は、40 または 80 MHz のチャネルを持つ 802.11ac よりも、802.11n を使用するローエンドの AP を使用して 20 MHz のチャネルを持つ 5GHz を使用した方が、はるかに優れた性能を発揮する、という意見を唱えています。

幅の広いチャネルを使用すると業務環境下で遅くなることが多いのはなぜでしょうか。これも、理由は同一チャネルの干渉です。犬が寝ようとしている時、人間よりもはるかに物音に敏感なのと同じです。犬は人間よりも広い周波数が聞こえるため、より多くの物音を聞いています。同様に、より広いチャネルを使用している AP は、はるかに頻繁に障害が発生するため、多くのクライアントが使用するには適していません。

どうすればよいのでしょうか。上で述べたように、802.11n を使用する低、中程度の帯域幅の AP を使用し、さらに別で、同じものを 5 GHz で 20 MHz のチャネルを使用して稼働させるのが賢明です。つまり、AP の数を増やすということです。それは、直近で使えない機能がついた派手な最新機種(クライアントサポートの不足、遅延も頻繁にあります)に投資するよりも正しい選択である可能性が高いでしょう。

まだ多くの管理者が、AP とコントローラを駆使して管理をしており、テストや検証をせずに次の設置に移行してしまいます。Wi-Fi は確かに状況把握の上トラブルシューティングをするのが最も難しいプロトコルの 1 つですが、すべてを把握する必要はありません。ただ、共通して陥りやすい問題を回避さえすれば、少し踏み込んで必要な情報を手に入れ、予測調査に盛り込むことができると考えています。これは、設置後の微調整において、技術者として約束したことを実現でき、顧客が目標を達成する役にも立つため、イライラを解消し、より充実感が増すことを意味しています。

以下のリンクより、ワイヤレスの専門家によるヒント(英語)をお聞きください。どれもシンプルでわかりやすく、見て楽しく、適切に Wi-Fi 環境を設定するためのベストプラクティスが満載です。