Ryan Orsi へのインタビュー
2019 年 5 月 28 日 Milena Babayev-Gurvits 著
5 月 14 ~ 16 日にワシントン D.C. で、Wi-Fi NOW 主催の Wi-Fi 20 週年を祝う 2019 年カンファレンス/展示会が開催されました。Wi-Fi 業界で活躍するプロフェッショナルが一堂に会し、Wi-Fi の将来と課題に関するさまざまなプレゼンテーションやディスカッションが行われました。3 日間のカンファレンスでは、基調講演を始めとする、イノベータやエキスパートによるさまざまなセッションが多くの参加者を集め、展示会では、ライブデモの体験や、Wi-Fi 業界の各分野を代表する企業との交流の場が設けられました。
このイベント会場でウォッチガードのプロダクトマネジメント担当ディレクタである Ryan Orsi を捕まえ、会場近くのコーヒーショップでインタビューすることができました。Ryan は少し前に、Wi-Fi の利用にどのようなリスクがあるのかを解説するセッションを終えたところだったため、講演の成功を祝いながら、Wi-Fi を利用する際に注意しなければ脅威についての講演での解説を補足し、新しい Wi-Fi セキュリティ標準の必要性についても語ってもらうことにしました。インタビューの内容を要約して、以下に紹介します。
Milena Babayev-Gurvits(以下、MB):Wi-Fi が今年で 20 周年を迎えました。20 年後は Wi-Fi がどのようになっていると思いますか?
Ryan Orsi(以下、RO):20 年後の Wi-Fi の姿を想像するのは、簡単なことではありません。現在の AP やクライアントのデバイスの姿や、バッテリの寿命、接続のセキュリティなどの制限をひとまず忘れて、20 年後の世界でどのような問題が解決されているだろうかと考えてみると、すべてが今より高速で小型で、セキュリティが強化されていることでしょう。我々は誰もが、どこに行っても接続されていて、ビジュアルでインタラクティブな方法で情報が提供される今の便利な生活を大いに気に入っています。また、風水にとって凶となる大きな電子機器や音の大きいデバイスを自宅や職場に置きたくありません。つまり、今から 20 年後の我々の生活では、文字通りにすべてが接続されていて、高速、安価、小型になっていて(ズーランダーに出てきたような携帯という意味ではありません)、個人やビジネスの情報が外部に漏れることはなくなっているでしょう。私はこれまでに、アンテナテクノロジの目を見張るような進歩によって Wi-Fi デバイスの小型化が可能になったり、環境発電などのテクノロジによってバッテリを使わずに Wi-Fi デバイスに給電できるようになったりする例を目にしてきました。Wi-Fi セキュリティに関するメッセージに誰もが耳を傾けるようになっており、Wi-Fi デバイスのより良いセキュリティに設計対する圧力が非常に高くなってきていると思います。このような進歩によって、20 年後には、今は想像もできないほどの低コスト、しかもまったく新しい方法で、セキュア Wi-Fi 接続を利用できるようになるでしょう。
MB:90% のユーザが宿泊施設を選ぶ際に最も重視する設備としてWi-Fi を挙げているというデータがありますが、公共の Wi-Fi への接続は慎重であるべきなのに、そうでないのはなぜだと思いますか?
RO:飛行機に乗る時に、飛行機がこれから向かう上空には癌や先天性疾患などの人体に影響する可能性がある化学物質が存在するという警告を見たことがある人もいると思いますが、それと同じことです。私もよく旅行しますが、その警告を読んで飛行機に乗るのを止めた人を見たことは一度もありません。つまり、こういった警告は、人体に影響を与える可能性のある深刻な問題の存在を我々に知らせるためのものですが、ほとんどの人は無視しますよね。公共のホットスポットに「自己責任で Wi-Fi をご利用ください。近くにいる第三者に情報を盗まれる可能性があります」という警告メッセージが表示されたときはどうでしょうか。適切に保護されていない Wi-Fi を使用すると、いくつかの有名な攻撃方法でハッキングされるリスクがありますが、誰もがその恐ろしさを認識するようになるまでには、まだ長い道のりがあります。このことが、我々が Trusted Wireless Environment Framework を業界に提案している理由の 1 つなのです。20 年の歴史で初めて、6 つの攻撃から保護されているかどうかが検証された Wi-Fi を誰もが利用できるようになりました。ホットスポットのネットワーク通信事業者には、自らの Wi-Fi セキュリティを検証し、検証に合格した場合は、「この Wi-Fi は信頼性が検証されているため、ハッキングのリスクはありません」と利用者に知らせるようにしてもらいたいと思います。
MB:Wi-Fi NOW 2019 の講演者全員が Wi-Fi 6 の話をしていましたが、本当にそれほど高速になるのでしょうか?
RO:速度はメリットの 1 つに過ぎず、実社会の高密度の環境で高速であるかどうかが問題です。Wi-Fi を何年も使ってきた我々にとって、ケーブル接続された実験環境でのスピードテストでどんなに高速になったと聞いても、あまり感動しません。Wi-Fi 6 によって、実社会のユーザが Wi-Fi を快適に利用できるようになり、信頼性が向上し、もちろん高速になるといった数多くのメリットが OFDMA にもたらされます。Wi-Fi がこの第 6 世代によってどのように進化することになるかを考えることは、私にとって大きな楽しみです。スマートフォンでは、使えない場所も多いので、Wi-Fi をオフにしてセルラーを利用する傾向がありますが、このような問題の多くは、Wi-Fi 6 で解決されることになるでしょう。たとえば、屋内の広い公共エリアを思い浮かべてみると良いでしょうね。第 6 世代の策定に関わった多くの人々の努力によって、Wi-Fi は明るい未来を迎えることになるでしょう。今後の発展が本当に楽しみです。
MB:Wi-Fi 6 では、セキュリティも向上するのでしょうか?
RO:WPA3 と Wi-Fi 6 が混同されて議論されることがありますが、ほとんどのベンダが Wi-Fi 6 の製品で WPA3 をサポートすることになるため、間違いではありません。つまり、質問の答えは「向上する」です。2017 年に完全に解読されてしまったことで、業界に衝撃が走った WPA2 と比べると、WPA3 ではセキュリティが強化されます。WPA2 には、指摘された時より 10 年も前から、この問題が存在していたのです。詳しい説明は省略しますが、WPA3 のセキュリティ強化の 1 つとして、ホテルや空港などの誰でも立ち入ることができる場所で、犯罪者や面白半分でいたずらする人が受動的な方法で簡単にトラフィックを傍受することはできなくなる点が挙げられます。また、これは大きな問題ではありませんが、WPA3 では、WPA2 に存在していた、簡単な「ハンドシェイク」で Wi-Fi パスワードを解読する方法は使えなくなるはずです。現在パッチが公開されている Dragonblood の脆弱性が明らかになり、WPA3 にも依然として脆弱性がある可能性があるとわかったことは、深刻な問題です。
MB:Wi-Fi セキュリティの話題ということで伺いますが、Wi-Fi 業界がレイヤ 2 セキュリティに関する標準をこれまでに何も採用しなかったのはなぜだと思いますか?
RO:これまでの 20 年にユーザが Wi-Fi に求めてきたことのほとんどは、接続とパフォーマンスに関するものでした。どのような市場であっても、ユーザからの要求がないものを業界が提供しようとすることはありません。私はこのような状況を変えたいと切に願っていますし、いつもは競い合うベンダが協力して新しいセキュリティを Wi-Fi 標準に組み込み、専門知識を持たない平均的なユーザであっても、接続にあたって今のようにタップやクリックといった追加操作が必要になるのではなく、ハッキングを心配することなく Wi-Fi を利用できるようにするべきだと考えています。
MB:ソーシャルメディアで #TrustYourWiFi ハッシュタグをフォローしていて気付いたのですが、世界中を飛び回って、Wi-Fi の安全な利用を積極的に呼びかけているようですね。今度はどこに行く予定ですか?
RO:2019 年も間もなく半分が過ぎようとしていますが、スペイン、ドイツ、チリ、イタリア、オランダ、デンマーク、スウェーデン、プエルトリコ、ワシントン DC、クロアチア… 他にもすぐに思い出せないだけで、本当に色々な場所に行きました。世界中のさまざまな場所に出掛け、Wi-Fi セキュリティに対する率直な意見に耳を傾けつつ、その重要性を訴えています。次の目的地の 1 つとして、AIM(Association for Information Management)のセキュリティ分科会の会合でユタ州に行く予定です。
時間も残りわずかになったので、Wi-Fi 以外の質問をしてもらってもいいですよ!
MB:プライベートな時間をどのように過ごしていますか?
RO:パソコン、カメラ、AirPod がない時は、サンディエゴで妻と 2 人のまだ小さい息子と過ごしています。20 キロの山道をハイキングしたり、キャンプしたり、動物園に行ったり、コロナド島のビーチに家族全員で出掛けて遊んだりします。よく働き、よく遊べというのが、Orsi 家のモットーです。
MB:これがないと生きていけないと思う食べ物は何ですか?
RO:アボカドです。悲しいほどカリフォルニア人なので、この素晴らしいフルーツに強い思い入れがあります。
MB:今読んでいる本は?
RO:Neil deGrasse Tyson の「Astrophysics for People(邦題:忙しすぎる人のための宇宙講座)」です。オタクと言えるほど、宇宙、弦理論、暗黒物質、暗黒エネルギーが大好きです。
MB:今までに行った場所で一番の良かったのはどこですか?
RO:難しい質問ですが、スペインの地中海に面したタラゴナがおそらく一番です。妻と息子と一緒に去年の夏に行きましたが、本当に素晴らしいところでした。
MB:今のプロダクトマネジメント担当ダイレクタ以外の仕事を選ぶとしたら、何をやりたいですか?また、その理由は?
RO:プロダクトマネジメントはとてもやりがいのある仕事であり、特にウォッチガードで大いに刺激を受け、私自身もこの業界のより良い未来に向けての発展に貢献できることは、素晴らしいことだと感じています。もし私が Neil の本に出てくるパラレルユニバースの 1 つに身を置くとしたら、カリフォルニアで技術系のスタートアップを立ち上げると思います。これまでに何度かスタートアップに参加したことがありますが、皆さんにも一度は経験してみることを強くお勧めします!
それでは最後に、Wi-Fi についての大切なメッセージをお届けします。
結局のところ、市販されているほとんどの Wi-Fi 製品は、セキュリティレベルという点で十分とは言えないため、Wi-Fi の利用時に注意しなければならない具体的な脅威を常に認識し、注意するよう、継続的にユーザを教育する必要があります。
Trusted Wireless Environment を Wi-Fi セキュリティのグローバルな標準として推進する取り組みにご参加いただくため、ぜひここをクリックしてください。
それではまた!